【津波避難】命を守る「津波避難タワー」 整備が遅れる北海道 防災先進地の取り組みは
北海道では甚大な被害が想定されている日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震に備え、注目されているのが「津波避難タワー」です。
道内では津波到達が30分と予想されていますが、いかに津波被害から命を守る場所を確保できるか重要になっています。
しかし、北海道はまだ十分に整備が進んでいません。
一体どんなものなのか、防災先進地を取材しました。
マチのあちこちで確認できる高い建物。
これが「津波避難タワー」と呼ばれる避難施設のひとつです。
じつはここ、北海道ではありません。
巨大地震から身を守るために、津波対策を徹底している都市がありました。
(百瀬記者)「津波被害から身を守るために避難タワーの整備を進めてきたのがここ、高知県です」
防災先進都市としてタワーの整備が進んでいます。
高知県には124基のタワーがあり、こちらの南国市だけでも沿岸部に近い場所に15基が整備されています。
一方、道によると、道内には蘭越町と別海町のわずか2基しか津波避難タワーの整備がされていないのが現状です。
「ナゼ高知は先進地?」
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「東日本大震災直後に、おおむね5分で逃げられる範囲に避難場所を整備しなさいと指針が出されました」
高知で甚大な被害が想定されている南海トラフ巨大地震。
東日本大震災を受けて津波対策への整備が一気に進み、南国市によるとハード面の整備はすべて完了したということです。
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「(市の想定の死者数は)最新の数字では3200人が大体980人ぐらいまで減っただろうという試算が出ています」
道内ではこれから迎える冬の夕方に、日本海溝・千島海溝沿いで巨大地震がおきた場合、津波被害だけでも死者は10万人以上にのぼるとしています。
しかし、津波避難タワーなどの整備を進めることで、被害を半分以下に抑えることができるということです。
「一体どんな避難施設?」
実際にのぼってみると、誰でも安心・安全の避難ができるような工夫が施されていました。
まずは階段です。
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「小学校の階段の基準で作っているので、上がり幅が若干低い」
さらに、足の不自由な方や高齢者にはー
(百瀬記者)「全ての津波避難タワーにはスロープが設置されていまして、階段を上ることが困難な高齢の方でも安全な場所に移動することができます」
こちらは去年行われた避難訓練の様子です。
歩行器や車いすを利用する人も避難をすることができました。
(参加者)「歩行器を使用しているし、筋力低下が激しいから上がれるかなと思ったが、スロープの設計が上手で、経験してよかったなと思います」
長時間滞在することも考えられています。
備蓄倉庫には毛布と水を完備。
男女に分かれた簡易トイレも設置されています。
また、ソーラーパネルでタワー内の最低限の照明もつく作りとなっています。
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「津波避難タワーに滞在する時間というのは、津波警報や大津波警報が解除されるまでというふうに考えています。長くて48時間、2日間ぐらいここで滞在することを考えています」
これだけ整備が進んでいる高知県。
東日本大震災を教訓に2011年から計画を始め、国の予算もスムーズにつき、自治体・住民の理解も進んでいったということなんです。
では、北海道に置き換えるとこれらの課題はクリアになっているのか。
ヒントは再び高知にありました。
スロープを上って案内してもらった場所は、津波から身を守るだけの施設ではありませんでした。
(百瀬記者)「こちらはどういった施設になるんですか?」
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「公民館の併設ということで、普段は公民館活動に利用する施設になっており、いざという時は津波からの避難が可能な施設となっております」
「普段は公民館?」
こちらの施設、外から見てみると避難するためのスロープや階段は変わらず設置されています。
しかし、壁や屋根がついていて、普段は公民館として利用している避難施設なんです。
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「他のタワーとの違いは、こういった部屋があることですので、雨風を遮断できる部屋がある」
毛布や水などの備蓄品はもちろん、こちらの赤いコンセントはソーラーパネルで発電した電気が自動的に供給される仕組みだということです。
これで携帯の充電も安心です。
近くにいた住民に話を聞くと、防災意識の高さも見えてきました。
(住民)「月に1回か2回は(訓練を)やっているんじゃないかな。津波がいざ来た時にはどういう対応をするかとか、つねに頭に入っていると思います」
「自治体の財源は?」
もちろん整備するためには莫大な費用がかかります。
どのようにして財源を確保しているのでしょうかー
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「国の補助金・交付金それから県の交付金を活用して整備したということで、市の持ち出しというのがほとんどないような状態」
南海トラフ巨大地震に備え、国や県の補助金で津波避難タワーの整備を進めた高知県。
これまで自治体の財政負担はほとんどゼロに近いということです。
一方で、北海道も去年9月、道南と道東の自治体を中心に、国から巨大地震の「特別強化地域」に指定され、建設費などの予算は国や道が大部分を負担してくれることになりました。
これで自治体は少ない予算で避難施設を整備できるようになりました。
「北海道はどうすればいい?」
では、北海道にはどのような避難タワーが必要になってくるのか。
東日本大震災より前から巨大地震への警鐘を鳴らし続けている地震地質学者の岡村教授はー
(高知大学 岡村眞名誉教授)「東北でもその日の夜のうちに息を引き取っていったお年寄りがたくさんいる。(北海道は)寒い期間が長いので、条件が北海道の場合はもっと厳しい。風を防ぐ、同時に高いところに発電機を置いて、自家発電によって暖房を確保していく。北海道型の津波避難施設は絶対に必要」
そんな北海道型の避難タワーの建設に着手するのが釧路町です。
国の「特別強化地域」に指定されてから、いち早く避難タワー4基の計画をしました。
(武田記者)「こちらの公園では、このあたりの丘を平面したうえで、その上に避難タワーを建設するということです」
釧路町は高知県の津波避難タワーを参考にし、ことし12月にタワーの着工を始めます。
タワー4基の総事業費はおよそ37億円かかる想定ですが、国と道の補助が入ると町の負担はおよそ4億円になる見込みです。
(武田記者)「北海道ならではの特徴は?」
(釧路町 藤井正樹防災安全課長)「壁・屋根がすべてつけられているといった点です。4基とも暖房機を備えていて、すべて発電はガス発電をするといった建物になっています」
避難場所に暖房設備を完備し、雪が入り込まないような仕切りやスロープに滑り止めを付けるなどの冬対策を施します。
「整備は進んでいる?」
道によると、「特別強化地域」に指定された39市町村のうち、津波から避難するための避難施設や避難場所の整備計画を提出しているのは、この1年でわずか7の市と町。
岡村教授は、自治体だけではなく住民側の防災意識を高めなければ、避難施設の整備につながらないと指摘します。
(高知大学 岡村眞名誉教授)「避難タワーをどこにどう作るかというのは、自治体の市長(町村長)の熱意と住民の防災意識がマッチしないと、どこに何を作るかという話し合いさえ始まらない。明日(津波が)来るかもしれないという危機感が出てこないと、命を助ける最も手早い確実な手段である津波避難タワーの建設に直結するのは難しい」
いつ起きてもおかしくない巨大地震。
北海道ならではの避難施設の整備と住民の防災意識を高めることが急がれます。
道内では津波到達が30分と予想されていますが、いかに津波被害から命を守る場所を確保できるか重要になっています。
しかし、北海道はまだ十分に整備が進んでいません。
一体どんなものなのか、防災先進地を取材しました。
マチのあちこちで確認できる高い建物。
これが「津波避難タワー」と呼ばれる避難施設のひとつです。
じつはここ、北海道ではありません。
巨大地震から身を守るために、津波対策を徹底している都市がありました。
(百瀬記者)「津波被害から身を守るために避難タワーの整備を進めてきたのがここ、高知県です」
防災先進都市としてタワーの整備が進んでいます。
高知県には124基のタワーがあり、こちらの南国市だけでも沿岸部に近い場所に15基が整備されています。
一方、道によると、道内には蘭越町と別海町のわずか2基しか津波避難タワーの整備がされていないのが現状です。
「ナゼ高知は先進地?」
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「東日本大震災直後に、おおむね5分で逃げられる範囲に避難場所を整備しなさいと指針が出されました」
高知で甚大な被害が想定されている南海トラフ巨大地震。
東日本大震災を受けて津波対策への整備が一気に進み、南国市によるとハード面の整備はすべて完了したということです。
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「(市の想定の死者数は)最新の数字では3200人が大体980人ぐらいまで減っただろうという試算が出ています」
道内ではこれから迎える冬の夕方に、日本海溝・千島海溝沿いで巨大地震がおきた場合、津波被害だけでも死者は10万人以上にのぼるとしています。
しかし、津波避難タワーなどの整備を進めることで、被害を半分以下に抑えることができるということです。
「一体どんな避難施設?」
実際にのぼってみると、誰でも安心・安全の避難ができるような工夫が施されていました。
まずは階段です。
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「小学校の階段の基準で作っているので、上がり幅が若干低い」
さらに、足の不自由な方や高齢者にはー
(百瀬記者)「全ての津波避難タワーにはスロープが設置されていまして、階段を上ることが困難な高齢の方でも安全な場所に移動することができます」
こちらは去年行われた避難訓練の様子です。
歩行器や車いすを利用する人も避難をすることができました。
(参加者)「歩行器を使用しているし、筋力低下が激しいから上がれるかなと思ったが、スロープの設計が上手で、経験してよかったなと思います」
長時間滞在することも考えられています。
備蓄倉庫には毛布と水を完備。
男女に分かれた簡易トイレも設置されています。
また、ソーラーパネルでタワー内の最低限の照明もつく作りとなっています。
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「津波避難タワーに滞在する時間というのは、津波警報や大津波警報が解除されるまでというふうに考えています。長くて48時間、2日間ぐらいここで滞在することを考えています」
これだけ整備が進んでいる高知県。
東日本大震災を教訓に2011年から計画を始め、国の予算もスムーズにつき、自治体・住民の理解も進んでいったということなんです。
では、北海道に置き換えるとこれらの課題はクリアになっているのか。
ヒントは再び高知にありました。
スロープを上って案内してもらった場所は、津波から身を守るだけの施設ではありませんでした。
(百瀬記者)「こちらはどういった施設になるんですか?」
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「公民館の併設ということで、普段は公民館活動に利用する施設になっており、いざという時は津波からの避難が可能な施設となっております」
「普段は公民館?」
こちらの施設、外から見てみると避難するためのスロープや階段は変わらず設置されています。
しかし、壁や屋根がついていて、普段は公民館として利用している避難施設なんです。
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「他のタワーとの違いは、こういった部屋があることですので、雨風を遮断できる部屋がある」
毛布や水などの備蓄品はもちろん、こちらの赤いコンセントはソーラーパネルで発電した電気が自動的に供給される仕組みだということです。
これで携帯の充電も安心です。
近くにいた住民に話を聞くと、防災意識の高さも見えてきました。
(住民)「月に1回か2回は(訓練を)やっているんじゃないかな。津波がいざ来た時にはどういう対応をするかとか、つねに頭に入っていると思います」
「自治体の財源は?」
もちろん整備するためには莫大な費用がかかります。
どのようにして財源を確保しているのでしょうかー
(高知県南国市危機管理課 野村学課長補佐)「国の補助金・交付金それから県の交付金を活用して整備したということで、市の持ち出しというのがほとんどないような状態」
南海トラフ巨大地震に備え、国や県の補助金で津波避難タワーの整備を進めた高知県。
これまで自治体の財政負担はほとんどゼロに近いということです。
一方で、北海道も去年9月、道南と道東の自治体を中心に、国から巨大地震の「特別強化地域」に指定され、建設費などの予算は国や道が大部分を負担してくれることになりました。
これで自治体は少ない予算で避難施設を整備できるようになりました。
「北海道はどうすればいい?」
では、北海道にはどのような避難タワーが必要になってくるのか。
東日本大震災より前から巨大地震への警鐘を鳴らし続けている地震地質学者の岡村教授はー
(高知大学 岡村眞名誉教授)「東北でもその日の夜のうちに息を引き取っていったお年寄りがたくさんいる。(北海道は)寒い期間が長いので、条件が北海道の場合はもっと厳しい。風を防ぐ、同時に高いところに発電機を置いて、自家発電によって暖房を確保していく。北海道型の津波避難施設は絶対に必要」
そんな北海道型の避難タワーの建設に着手するのが釧路町です。
国の「特別強化地域」に指定されてから、いち早く避難タワー4基の計画をしました。
(武田記者)「こちらの公園では、このあたりの丘を平面したうえで、その上に避難タワーを建設するということです」
釧路町は高知県の津波避難タワーを参考にし、ことし12月にタワーの着工を始めます。
タワー4基の総事業費はおよそ37億円かかる想定ですが、国と道の補助が入ると町の負担はおよそ4億円になる見込みです。
(武田記者)「北海道ならではの特徴は?」
(釧路町 藤井正樹防災安全課長)「壁・屋根がすべてつけられているといった点です。4基とも暖房機を備えていて、すべて発電はガス発電をするといった建物になっています」
避難場所に暖房設備を完備し、雪が入り込まないような仕切りやスロープに滑り止めを付けるなどの冬対策を施します。
「整備は進んでいる?」
道によると、「特別強化地域」に指定された39市町村のうち、津波から避難するための避難施設や避難場所の整備計画を提出しているのは、この1年でわずか7の市と町。
岡村教授は、自治体だけではなく住民側の防災意識を高めなければ、避難施設の整備につながらないと指摘します。
(高知大学 岡村眞名誉教授)「避難タワーをどこにどう作るかというのは、自治体の市長(町村長)の熱意と住民の防災意識がマッチしないと、どこに何を作るかという話し合いさえ始まらない。明日(津波が)来るかもしれないという危機感が出てこないと、命を助ける最も手早い確実な手段である津波避難タワーの建設に直結するのは難しい」
いつ起きてもおかしくない巨大地震。
北海道ならではの避難施設の整備と住民の防災意識を高めることが急がれます。
「STVニュース」
11/3(金)12:36更新