【胆振東部地震】発生から5年 ブラックアウトの対策と課題
胆振東部地震からまもなく5年。
きょうは日本で初めて起きた全域停電「ブラックアウト」についてお伝えします。
「ブラックアウト」では私たちの暮らしがいかに電気に依存しているのか気づかされました。
あの教訓は生かされているのか。
いまも続く対策と課題を取材しました。
北海道別海町の牧場です。
およそ80頭の乳牛を飼育している村山和哉さん。
猛暑が続いたことしの夏は牛にとっても過酷な環境でした。
(酪農家 村山和哉さん)「扇風機をつけていても熱風しかこなかった。場所によっては熱中症で死んじゃうくらいだって」
国内の生乳の半分以上を生産する北海道の酪農。
この暑さ以上の危機が訪れたのは5年前のことです。
「緊急地震速報です!」
2018年9月6日の未明に起きた胆振東部地震。
厚真町では震度7を観測しました。
そして18分後。
(山内記者)「いま停電になりました。辺りの電灯が消えました」
日本で初めて起きた全域停電「ブラックアウト」。
暗闇の中で人々は路頭に迷いました。
夜が明けた札幌市役所には、携帯電話の充電を求めて4時間待ちの列が。
(男性)「来たとき0%だったけど26パーセントだなぁ」
影響は震源から350キロ離れた村山さんの牧場にも…
生乳の鮮度を保つ冷却装置が止まり、丸1日以上、搾乳ができませんでした。
(酪農家 村山和哉さん(当時))「乳房炎ですね。一番この子が重いです」
乳房に雑菌が入り、発熱などの症状が出る乳房炎。
多い時で20頭がかかりました。
体内に薬が残る牛の生乳は捨てなければいけません。
廃棄された生乳は全道で2万トン。
被害額は23億円にも上りました。
乳房炎が治る見込みのない牛は肉牛として出荷。
苦渋の決断でした。
(酪農家 村山和哉さん)「まだ若かったけど見切りつけて売りに出してしまった牛もいるので、それは痛ましい思い」
地震の翌年、村山さんは国の補助制度を活用して自家発電機を備えました。
5年前にわずか3割だった酪農家への普及率。
いまでは9割近くまで上がっています。
(酪農家 村山和哉さん)「全部が止まってしまっていたんで。搾乳から何から全部できない状態だったので、先々見越して必要なものの1つだったと思います、今思えば。電気のありがたみは感じています」
(久保アナウンサー)「震源地に近い苫東厚真発電所です。当時のこの発電所の役割が大きすぎたことがブラックアウトの一因となりました」
稼働している中で最も発電量が大きい苫東厚真発電所。
当時もいまも、道内の半分近くの電力供給を担っています。
(北海道電力 真弓明彦社長(当時))「泊発電所が停止している中で、苫東厚真を主力電源として運転せざるをえなかった。(3基が)一気に停止するという形は想定はしていなかった」
北電は、苫東厚真の2基が停止しても安定供給ができるように備えていました。
しかし、ほかの場所で送電線がショートするなど想定を超えた被害が重なります。
地震発生から18分後までに3基すべてが停止。
中核を担う電源を失いブラックアウトに陥ったのです。
再発防止策として、停止した各発電所の情報をいち早く検知する装置の導入を進めています。
さらに…
(東海林記者)「北海道と本州を繋ぐ送電線の増強工事が始まりました。この設備もブラックアウトを防ぐために重要な役割を担います」
本州とつながる送電設備「北本連系線」。
地震が起きた時、容量いっぱいの60万キロワットが本州から送られましたが、十分ではありませんでした。
北電は、地震後に新設した青函トンネルを通るルートについてさらなる増強工事を開始。
送電容量は当時の倍に増えます。
(北海道電力ネットワーク 渡辺真琴 基幹系工事センター所長)「地震が起きて道内の発電機が脱落した場合であっても、ブラックアウトまでいかない可能性は高くなると考えている」
しかし完成は4年半後。
対策はまだ道半ばです。
(運上佳江さん)「愛夕ちゃん。すてきな髪形見せなくていいの。こんな感じで。大人になったんだよって」
札幌市の運上佳江さん。
長女の愛夕さんは脳が委縮する難病で、たんの吸引など医療的ケアが必要です。
激しい揺れの中で娘のベッドに駆け寄ったあの日のことを鮮明に覚えています。
(運上佳江さん)「呼吸器がピポーって鳴ったんですよね。いまコンセントに入っているはずなのに内蔵バッテリーに切り替えましたという表示が出たのを見て。あーやっぱり停電したんだというのに気付いたんですよね。真っ暗だったんだけどそれがすごい怖かったのを覚えてます。電源がないと彼女の命が守れないなというのは思っていますね」
運上さんは重度の障害児を預かる施設を運営しています。
ブラックアウトの直後、カセットボンベで動く自家発電機を購入しました。
ただ…
(記者)「すべての事業所に置いている?」
(運上佳江さん)「ではないですね。ある事業所とない事業所がある。施設の整備に対する補助金というのはないです」
札幌市では、自宅で人工呼吸器などが必要な「個人」に対して、非常用電源の購入費用を補助しています。
しかし「施設」は対象に含まれていません。
もし電気が足りなくなったら…不安は残ったままです。
(運上佳江さん)「購入するとだいたい50万くらいかかって、札幌市内と石狩市に5事業所あってそれだけで250万円。その費用をどこから出すのか、すごく難しいなって」
医療的ケアが必要な子どもは札幌市内に300人以上います。
運上さんは子どもたちが宿泊できる施設を2年後に開設予定。
避難所としても活用したいと考えています。
(運上佳江さん)「備えていかなければいけないポータブル電源だとか、いまでもまだ不十分だと思っているんですよね。(ブラックアウトの)経験を北海道は生かして備えるための助成は必要だと思う」
電気に依存してきた日常が一気に破綻したブラックアウト。
あの暗闇で得た教訓はいま生かされているでしょうか。
命を、暮らしを守るために。
(2023年9月4日放送)
きょうは日本で初めて起きた全域停電「ブラックアウト」についてお伝えします。
「ブラックアウト」では私たちの暮らしがいかに電気に依存しているのか気づかされました。
あの教訓は生かされているのか。
いまも続く対策と課題を取材しました。
北海道別海町の牧場です。
およそ80頭の乳牛を飼育している村山和哉さん。
猛暑が続いたことしの夏は牛にとっても過酷な環境でした。
(酪農家 村山和哉さん)「扇風機をつけていても熱風しかこなかった。場所によっては熱中症で死んじゃうくらいだって」
国内の生乳の半分以上を生産する北海道の酪農。
この暑さ以上の危機が訪れたのは5年前のことです。
「緊急地震速報です!」
2018年9月6日の未明に起きた胆振東部地震。
厚真町では震度7を観測しました。
そして18分後。
(山内記者)「いま停電になりました。辺りの電灯が消えました」
日本で初めて起きた全域停電「ブラックアウト」。
暗闇の中で人々は路頭に迷いました。
夜が明けた札幌市役所には、携帯電話の充電を求めて4時間待ちの列が。
(男性)「来たとき0%だったけど26パーセントだなぁ」
影響は震源から350キロ離れた村山さんの牧場にも…
生乳の鮮度を保つ冷却装置が止まり、丸1日以上、搾乳ができませんでした。
(酪農家 村山和哉さん(当時))「乳房炎ですね。一番この子が重いです」
乳房に雑菌が入り、発熱などの症状が出る乳房炎。
多い時で20頭がかかりました。
体内に薬が残る牛の生乳は捨てなければいけません。
廃棄された生乳は全道で2万トン。
被害額は23億円にも上りました。
乳房炎が治る見込みのない牛は肉牛として出荷。
苦渋の決断でした。
(酪農家 村山和哉さん)「まだ若かったけど見切りつけて売りに出してしまった牛もいるので、それは痛ましい思い」
地震の翌年、村山さんは国の補助制度を活用して自家発電機を備えました。
5年前にわずか3割だった酪農家への普及率。
いまでは9割近くまで上がっています。
(酪農家 村山和哉さん)「全部が止まってしまっていたんで。搾乳から何から全部できない状態だったので、先々見越して必要なものの1つだったと思います、今思えば。電気のありがたみは感じています」
(久保アナウンサー)「震源地に近い苫東厚真発電所です。当時のこの発電所の役割が大きすぎたことがブラックアウトの一因となりました」
稼働している中で最も発電量が大きい苫東厚真発電所。
当時もいまも、道内の半分近くの電力供給を担っています。
(北海道電力 真弓明彦社長(当時))「泊発電所が停止している中で、苫東厚真を主力電源として運転せざるをえなかった。(3基が)一気に停止するという形は想定はしていなかった」
北電は、苫東厚真の2基が停止しても安定供給ができるように備えていました。
しかし、ほかの場所で送電線がショートするなど想定を超えた被害が重なります。
地震発生から18分後までに3基すべてが停止。
中核を担う電源を失いブラックアウトに陥ったのです。
再発防止策として、停止した各発電所の情報をいち早く検知する装置の導入を進めています。
さらに…
(東海林記者)「北海道と本州を繋ぐ送電線の増強工事が始まりました。この設備もブラックアウトを防ぐために重要な役割を担います」
本州とつながる送電設備「北本連系線」。
地震が起きた時、容量いっぱいの60万キロワットが本州から送られましたが、十分ではありませんでした。
北電は、地震後に新設した青函トンネルを通るルートについてさらなる増強工事を開始。
送電容量は当時の倍に増えます。
(北海道電力ネットワーク 渡辺真琴 基幹系工事センター所長)「地震が起きて道内の発電機が脱落した場合であっても、ブラックアウトまでいかない可能性は高くなると考えている」
しかし完成は4年半後。
対策はまだ道半ばです。
(運上佳江さん)「愛夕ちゃん。すてきな髪形見せなくていいの。こんな感じで。大人になったんだよって」
札幌市の運上佳江さん。
長女の愛夕さんは脳が委縮する難病で、たんの吸引など医療的ケアが必要です。
激しい揺れの中で娘のベッドに駆け寄ったあの日のことを鮮明に覚えています。
(運上佳江さん)「呼吸器がピポーって鳴ったんですよね。いまコンセントに入っているはずなのに内蔵バッテリーに切り替えましたという表示が出たのを見て。あーやっぱり停電したんだというのに気付いたんですよね。真っ暗だったんだけどそれがすごい怖かったのを覚えてます。電源がないと彼女の命が守れないなというのは思っていますね」
運上さんは重度の障害児を預かる施設を運営しています。
ブラックアウトの直後、カセットボンベで動く自家発電機を購入しました。
ただ…
(記者)「すべての事業所に置いている?」
(運上佳江さん)「ではないですね。ある事業所とない事業所がある。施設の整備に対する補助金というのはないです」
札幌市では、自宅で人工呼吸器などが必要な「個人」に対して、非常用電源の購入費用を補助しています。
しかし「施設」は対象に含まれていません。
もし電気が足りなくなったら…不安は残ったままです。
(運上佳江さん)「購入するとだいたい50万くらいかかって、札幌市内と石狩市に5事業所あってそれだけで250万円。その費用をどこから出すのか、すごく難しいなって」
医療的ケアが必要な子どもは札幌市内に300人以上います。
運上さんは子どもたちが宿泊できる施設を2年後に開設予定。
避難所としても活用したいと考えています。
(運上佳江さん)「備えていかなければいけないポータブル電源だとか、いまでもまだ不十分だと思っているんですよね。(ブラックアウトの)経験を北海道は生かして備えるための助成は必要だと思う」
電気に依存してきた日常が一気に破綻したブラックアウト。
あの暗闇で得た教訓はいま生かされているでしょうか。
命を、暮らしを守るために。
(2023年9月4日放送)
「STVニュース」
9/8(金)9:51更新