原爆に耐えた“ピアノ”の音色が伝えるメッセージ 戦争を知らない高校生が込める思いとは… 北海道

シリーズ戦後80年「いまを、戦前にさせない」。
原爆が投下されても奇跡的に耐えた「被爆ピアノ」。
そのコンサートが札幌で開かれました。
企画したのは道内の高校生。
平和を願う思いをのせてその音色を響かせました。
札幌の地下に響くピアノの音色… 刻まれた無数の傷跡が「戦争」を伝える
札幌の地下歩行空間に響くピアノの音色。
80年前のあの日、広島で被爆したピアノです。
(矢川光則さん)「このピアノはもらい受けたときのままです。外観は全く手を加えていないです。中もピアノ線を2本しか替えていない。上からのぞいてみたらわかる、新しい弦が2本入っている、色の違うのが」
ピアノに刻まれた無数の傷跡。
爆心地から3キロの民家で爆風にさらされながらも奇跡的に原形をとどめました。
(上坂芽生さん)「矢川さんが広島からここまでピアノと一緒に来てくれたのもそうだし、いろんな方に平和の種をまけたらいいなと思います」
平和の音色を奏でる「被爆ピアノ」。
企画したのは、戦争を知らない若い世代です。
戦争を知らない9人の高校生たち「時間的な危機感を抱いた」 コンサートで伝えたいのは…
2025年1月、コンサートの準備は大詰めを迎えていました。
(高佐安里さん)「戦争について負の感情の方が大きいけど、多くの人に身近である音楽の力を借りることが、私の中では一番コンサートの意味があると思って」
(皆川舞奈さん)「ボーカルがいなくても高校生の合唱とか高校生が歌うとかしたら」
メンバーは学校も学年も異なる9人の高校生。
(上坂芽生さん)「核兵器の廃絶と平和な世界の実現に向けた署名活動を行っています」
戦後80年の2025年、原爆の悲惨さを伝えようと被爆ピアノのコンサートを開催することにしたのです。
(上坂芽生さん)「被爆80年ということもあるので、私たちがこの節目をどうやっていろんな方々に、どう被爆を伝えていくか平和を伝えていくか」
1945年8月6日、広島に落とされた原子爆弾。
マチは壊滅的な被害を受け、その年に亡くなった人はおよそ14万人と言われています。
札幌にある原爆資料館です。
戦後発足した北海道被爆者協会が運営し、平和を訴える活動を続けてきました。
しかしー
「解散の方向をここで決定したいと思います。いかがでしょうか」
高齢化を理由に、北海道被爆者協会は2025年3月に解散するという苦渋の決断を下しました。
(北海道被爆者協会 広田凱則会長)「年齢的なものもありますからやむを得ない思います。動ける間は運動を続けていきたい」
(上坂芽生さん)「被爆ピアノを開催するってなったときに私たちの頭によぎったのは、北海道被爆者協会の解散ですよね。時間的な危機感を抱いたのが開催のきっかけだった」
被爆2世・広島の調律師 被爆者から託された“ピアノ”への思い
3月28日、コンサートを翌日に控え、1台のトラックが小樽港に到着しました。
(矢川光則さん)「被爆者から広島で被爆したピアノを託されて、広島の調律師として伝えていかなきゃという使命がある」
被爆2世でもある調律師の矢川光則さん。
全国から依頼を受け、所有する被爆ピアノを運んでいます。
(矢川光則さん)「ことしは200日家にいないです、半分以上いない。ぼくはいつも平和の種まきって言っているんですけど、きっかけづくりですね。被爆ピアノの音色を聞いたり触れたりして、その人が平和に対して一歩考えてもらうきっかけづくりになればいいと思う」
高校生の挑戦ー ピアノの音色が届けた「平和」のバトン
コンサートの初日。
開催にかかる費用はクラウドファンディングで調達。
高校生の挑戦に多くの人が賛同しました。
すでに他界した被爆者の男性から贈られたピアノ。
いまの私たちに平和の尊さを伝えます。
(ピアノを弾いた人)「鍵盤とかペダルとかが軽くて、こんな感じなんだと思って。被爆で死んじゃった人とか、そういう人がたくさんいるから、やっぱり戦争は終わってほしいと思いました」
(ピアノを弾いた人)「なんか泣きそうになってくるんです、だんだん。なんか、そういう…ああ、泣きそうになってくる。戦争の辛い経験をしていると思うと、泣きそうで」
コンサートには北海道被爆者協会の広田会長も姿を見せました。
(北海道被爆者協会 広田凱則会長)「高校生が関心を持って被爆したピアノを使って演奏をして、皆さんに知ってもらおうという気持ちがあるのはいいことだと思いますね。私としてもうれしい」
一瞬にして多くの命を奪った原爆投下から80年。
平和のバトンが次の世代に渡されます。
(矢川光則さん)「平和は誰かが伝えていかないとみなさん認識も持たない、1人ひとりがつくりだしていくものだと思う。人が与えてくれるものではない。ずっと広がっていけばいいなと思います。そうすれば世界平和は必ず来ると思う」
(上坂芽生さん)「自分たちの活動が多くの世代の方に繋がっていっている、広がっていっていると実感できる機会でもあったので、ひとりでも多くの方々に平和のバトンをつなげていければいいなと思います」
戦争の記憶をいまにつなぐ被爆ピアノ。
世界から核兵器がなくなるまで、平和の音色を奏でます。