9月27日「栄養状態って何ですか? 後編」
2020年9月27日(日)
9月27日「栄養状態って何ですか? 後編」
山本:さて、今日もスタジオにはゲストにお越しいただいております。
H・Nメディック「さっぽろ東」の院長 角田政隆(つのだまさたか)先生です。
おはようございます。
角田:おはようございます。
山本:では、早速ですが角田先生、きょうのテーマは?
角田:はい、先週に引き続き、「栄養状態」って何ですか?というお話の後編です。
陶子:先週のおさらいです。「栄養状態」とは何か?透析患者さんは栄養状態が悪い、というのが前提なんですけど、どう悪いのか、体内ではどういうことが起こっているのかということをお話頂きました。栄養素は大事ですが、透析患者さんであるというだけで体内での栄養素の廻り方、燃やされ方がちょっと違う。だから、工夫が必要ですよ、というお話をして頂きました。栄養素が血肉になるプロセスがうまくいかないと何が困るのかということも教えて頂きました。そして今回は、これらのことに気づけなければ、どうなってしまうのか。それに至る入り口というのをお話いただこうと思います。
山本:では、角田先生、お願いします
角田:山本さん、突然ですけど「サルコペニア」ってご存知ですか?
山本:のっけから大変恐縮なんですけれども、まっったくわからないので、トーコ先生、教えてください!
陶子:「サルコ」っていうのは筋肉。「ペニア」っていうのは「減弱する」…減ったり弱まったりする、というような意味です。合わせると「筋肉が弱々しくへにょへにょ…ってなっちゃうよ」というイメージですが…伝わりました?
山本:わ、わかりました。なんか、恐ろしいですね…
角田:指標としては握力を主に測っていくんですけども(透析患者さんは手根管症候群など手の力が弱くなる方もいるので一概には言えないのですがそれはさておき)、一般の診断基準で言えば、男性は26キロ、女性は18キロ、これらの数値を下回ってくると、サルコペニアの可能性があると考えられています。
陶子:握力を測ることでいろんなことがわかってくるんですね。
角田:そうですね。うちも透析患者さんに協力してもらって年に2回くらい握力を測っているんですが、5割くらいの方が基準を下回っていて、これは考えなきゃいけないなと思っています。
山本:握力のお話でしたが総じて「筋肉」ってホントに大事なんですね。
角田:そうですね、先週もお話しましたけど、栄養状態が悪いと筋肉をエネルギー源として使っていってしまうために体は痩せていってしまうということになりますので、筋肉を保つ、というのは栄養の観点からみても非常に重要だということになります。
陶子:よく「体重増やしたくないから食べないで痩せる」的な誤解をなさる患者さんがいらっしゃると思うんですけど…。良く「体重」って聞くと思春期から女性にとっては半ば呪いのような感じで、「痩せなきゃ!!」的な強迫めいたイメージもありますけれど、「筋肉の重さ」というものも頭に置いておいて欲しいですね。筋「肉」は大事!
山本:筋肉ってやっぱり重さもある程度あるもの、ですもんね。数値ではなくて、身体を作ってくれている筋肉がちゃんとある、ということが大事、ということですよね。
角田:その通りです。ところで山本さん、「フレイル」という言葉は聞いたことがありますか?
山本:今度は「フレイル」ですか…ファッション雑誌の名前…なわけないですし…
陶子:「フレイル」という言葉、じゃあここで覚えていきましょう。最近新聞などでも取り上げられています。「弱々しい」という意味です。これもへにゃへにゃタイプの言葉なんですけど、体力が無くなってへにゃへにゃってなっているような概念的な言葉です。今日の話題としては、体力の無さを、老齢と絡めて表現している言葉、でしょうか。
角田:「フレイル」を患者さんに説明するときは、その状態をほうっておいたら、近い将来に入院するとか、生命の危険くるとか、そういう大変な状態になってしまう可能性のある状態だ、というふうに考えられているのが「フレイル」という状況です。
山本:目に見えて、ではなく、隠れへにゃへにゃって感じですね?
角田:フレイルというのは適切に対処すれば元の状態に戻る可能性があるという意味でも、適切に患者さんの状態を捉えて対応するということが重要なのではないかと考えられています。
陶子:「衰弱していることに気づく」ってすごい大事なことだと思います。
角田:そうですね。で、「フレイル」っていうのは診断の方法がすごくいっぱい出ているんですけれども、当院でやっている方法のひとつが簡易のチェックリストでして、「気分が落ち込んでいるかどうか」「階段を手すりを使わずに上がれるか」「1キロくらいの距離を続けて歩くことができるか」「1日のうちに8割以上の時間を寝て過ごしていないか」「体重がどんどん落ちていっていないか」この5つの項目のうち、3つ以上があてはまるとフレイルじゃないかと言われています。
陶子:「気分の落ち込み」というのは、医学的な評価に入るの?と結構びっくりされるかもしれませんが、結果として気分の落ち込みに顕れる「何か」を私たちは診ている、と言えるのかもしれません。
角田:だから、フレイルというのは身体的な概念だけじゃなく、明日の生活に困ってしまう、とか、ひとりで過ごすのは寂しい、といった社会的・精神的なことを含めた概念で、こういったことを対応していくことで良くなる、ということも考えられています。
山本:対策をすることで打開できる、って嬉しい驚きですね。で、これも「栄養」としっかりと絡み合っていること、だと。
角田:そうですね。フレイルは先程のサルコペニアや栄養状態との関連が言われていまして、やはり栄養をしっかりとやっていくことによって、対応していくことが可能ではないかと考えています。
陶子:活力のない自分に気づき、そして栄養を立て直す、これが寿命の延びにつながる。すごくないですか?
山本:実感として、透析患者ではない私からしても、おいしいものを食べたり、モリモリごはんを食べたらパワーが出てきて元気になる、それって、もしかしたらただの感覚とか気持ちの問題だけではなくて、身体の細胞だったり筋肉なんかがパワーを持ってくれている状態なんですかね?
陶子:確かに。元気がなきゃ食べようって思わないかもしれません。
角田:その通りですね。難しいことのようでそんなに難しいことは言ってない、というのが栄養の話ということになりますね。
山本:透析患者さんにとっては、殊に栄養状態というのは大事だということがよくわかりました。
角田:実は食事と運動というのは車軸の両輪なんて言われていまして、食事をしっかり摂る、運動をしっかりするというのが、栄養状態を良くする、筋肉の状態を良くする、ということにつながっています。透析患者さんの食事ですが、昔は「リン」というのは非常に悪と捉えられていて、リンの高い食事を控えましょうという形でやってきました。リンの高い食事というのは主にタンパク質なので、結果としてタンパク質の摂取制限につながってしまって、患者さん、長生きはするようになったんですが、元気に生きていく、ということが難しくなっていた、という問題があるんですね。最近の考えでは、タンパク質をしっかり摂って、元気に長生きしてもらうのが、非常に重要になってきています。で、タンパク質を摂るとどうしてもリンが上がってきてしまうのですが、リンに関してはリン吸着薬といったものがいろんな種類が出てきますのでそれを適切に使うとか、先生と相談して透析の条件をしっかり検討してもらうとか、そのへんを考えながらなるべくタンパク質を摂ってもらう、ということが大切です。
陶子:筋肉は味方である、と。力をつけるためにタンパク質は必要「悪」じゃない。「透析患者さんにとってタンパク質はリンの元凶」だ、みたいなことを言われがちだけれども、「ちょっと待って。力強く生きていくためにタンパク質は大事でしょう。じゃあ、上がるリンはなんとかするっていう方向でいこうよ。」というような考え方なんですよね。
山本:そういった対応をしてくれるお薬がしっかりあるっていうことも強い味方ではありますよね。
角田:薬の種類がどんどん出てきているというのもいいことだと思います。
陶子:あと私は、患者さんとのコミュニケーションが大事だと思うんです。角田先生のように、いろんなことを考えてくださっている先生がいる、毎日毎日患者さんと顔を合わせる、個々の患者さんの状態に応じて「じゃあこの薬を使いましょう」という結論に導くために、やっぱり話し合いは大事です。患者さんの立場としては「コレが不安なんだ」ということを病院のスタッフと和気あいあいと話す、活力を持って話すことで、治療に参加してるよ、っていうような思いを共有できればいいかなって思ってます。
山本:角田先生、ありがとうございました
角田:ありがとうございました
H・Nメディック「さっぽろ東」の院長 角田政隆(つのだまさたか)先生です。
おはようございます。
角田:おはようございます。
山本:では、早速ですが角田先生、きょうのテーマは?
角田:はい、先週に引き続き、「栄養状態」って何ですか?というお話の後編です。
陶子:先週のおさらいです。「栄養状態」とは何か?透析患者さんは栄養状態が悪い、というのが前提なんですけど、どう悪いのか、体内ではどういうことが起こっているのかということをお話頂きました。栄養素は大事ですが、透析患者さんであるというだけで体内での栄養素の廻り方、燃やされ方がちょっと違う。だから、工夫が必要ですよ、というお話をして頂きました。栄養素が血肉になるプロセスがうまくいかないと何が困るのかということも教えて頂きました。そして今回は、これらのことに気づけなければ、どうなってしまうのか。それに至る入り口というのをお話いただこうと思います。
山本:では、角田先生、お願いします
角田:山本さん、突然ですけど「サルコペニア」ってご存知ですか?
山本:のっけから大変恐縮なんですけれども、まっったくわからないので、トーコ先生、教えてください!
陶子:「サルコ」っていうのは筋肉。「ペニア」っていうのは「減弱する」…減ったり弱まったりする、というような意味です。合わせると「筋肉が弱々しくへにょへにょ…ってなっちゃうよ」というイメージですが…伝わりました?
山本:わ、わかりました。なんか、恐ろしいですね…
角田:指標としては握力を主に測っていくんですけども(透析患者さんは手根管症候群など手の力が弱くなる方もいるので一概には言えないのですがそれはさておき)、一般の診断基準で言えば、男性は26キロ、女性は18キロ、これらの数値を下回ってくると、サルコペニアの可能性があると考えられています。
陶子:握力を測ることでいろんなことがわかってくるんですね。
角田:そうですね。うちも透析患者さんに協力してもらって年に2回くらい握力を測っているんですが、5割くらいの方が基準を下回っていて、これは考えなきゃいけないなと思っています。
山本:握力のお話でしたが総じて「筋肉」ってホントに大事なんですね。
角田:そうですね、先週もお話しましたけど、栄養状態が悪いと筋肉をエネルギー源として使っていってしまうために体は痩せていってしまうということになりますので、筋肉を保つ、というのは栄養の観点からみても非常に重要だということになります。
陶子:よく「体重増やしたくないから食べないで痩せる」的な誤解をなさる患者さんがいらっしゃると思うんですけど…。良く「体重」って聞くと思春期から女性にとっては半ば呪いのような感じで、「痩せなきゃ!!」的な強迫めいたイメージもありますけれど、「筋肉の重さ」というものも頭に置いておいて欲しいですね。筋「肉」は大事!
山本:筋肉ってやっぱり重さもある程度あるもの、ですもんね。数値ではなくて、身体を作ってくれている筋肉がちゃんとある、ということが大事、ということですよね。
角田:その通りです。ところで山本さん、「フレイル」という言葉は聞いたことがありますか?
山本:今度は「フレイル」ですか…ファッション雑誌の名前…なわけないですし…
陶子:「フレイル」という言葉、じゃあここで覚えていきましょう。最近新聞などでも取り上げられています。「弱々しい」という意味です。これもへにゃへにゃタイプの言葉なんですけど、体力が無くなってへにゃへにゃってなっているような概念的な言葉です。今日の話題としては、体力の無さを、老齢と絡めて表現している言葉、でしょうか。
角田:「フレイル」を患者さんに説明するときは、その状態をほうっておいたら、近い将来に入院するとか、生命の危険くるとか、そういう大変な状態になってしまう可能性のある状態だ、というふうに考えられているのが「フレイル」という状況です。
山本:目に見えて、ではなく、隠れへにゃへにゃって感じですね?
角田:フレイルというのは適切に対処すれば元の状態に戻る可能性があるという意味でも、適切に患者さんの状態を捉えて対応するということが重要なのではないかと考えられています。
陶子:「衰弱していることに気づく」ってすごい大事なことだと思います。
角田:そうですね。で、「フレイル」っていうのは診断の方法がすごくいっぱい出ているんですけれども、当院でやっている方法のひとつが簡易のチェックリストでして、「気分が落ち込んでいるかどうか」「階段を手すりを使わずに上がれるか」「1キロくらいの距離を続けて歩くことができるか」「1日のうちに8割以上の時間を寝て過ごしていないか」「体重がどんどん落ちていっていないか」この5つの項目のうち、3つ以上があてはまるとフレイルじゃないかと言われています。
陶子:「気分の落ち込み」というのは、医学的な評価に入るの?と結構びっくりされるかもしれませんが、結果として気分の落ち込みに顕れる「何か」を私たちは診ている、と言えるのかもしれません。
角田:だから、フレイルというのは身体的な概念だけじゃなく、明日の生活に困ってしまう、とか、ひとりで過ごすのは寂しい、といった社会的・精神的なことを含めた概念で、こういったことを対応していくことで良くなる、ということも考えられています。
山本:対策をすることで打開できる、って嬉しい驚きですね。で、これも「栄養」としっかりと絡み合っていること、だと。
角田:そうですね。フレイルは先程のサルコペニアや栄養状態との関連が言われていまして、やはり栄養をしっかりとやっていくことによって、対応していくことが可能ではないかと考えています。
陶子:活力のない自分に気づき、そして栄養を立て直す、これが寿命の延びにつながる。すごくないですか?
山本:実感として、透析患者ではない私からしても、おいしいものを食べたり、モリモリごはんを食べたらパワーが出てきて元気になる、それって、もしかしたらただの感覚とか気持ちの問題だけではなくて、身体の細胞だったり筋肉なんかがパワーを持ってくれている状態なんですかね?
陶子:確かに。元気がなきゃ食べようって思わないかもしれません。
角田:その通りですね。難しいことのようでそんなに難しいことは言ってない、というのが栄養の話ということになりますね。
山本:透析患者さんにとっては、殊に栄養状態というのは大事だということがよくわかりました。
角田:実は食事と運動というのは車軸の両輪なんて言われていまして、食事をしっかり摂る、運動をしっかりするというのが、栄養状態を良くする、筋肉の状態を良くする、ということにつながっています。透析患者さんの食事ですが、昔は「リン」というのは非常に悪と捉えられていて、リンの高い食事を控えましょうという形でやってきました。リンの高い食事というのは主にタンパク質なので、結果としてタンパク質の摂取制限につながってしまって、患者さん、長生きはするようになったんですが、元気に生きていく、ということが難しくなっていた、という問題があるんですね。最近の考えでは、タンパク質をしっかり摂って、元気に長生きしてもらうのが、非常に重要になってきています。で、タンパク質を摂るとどうしてもリンが上がってきてしまうのですが、リンに関してはリン吸着薬といったものがいろんな種類が出てきますのでそれを適切に使うとか、先生と相談して透析の条件をしっかり検討してもらうとか、そのへんを考えながらなるべくタンパク質を摂ってもらう、ということが大切です。
陶子:筋肉は味方である、と。力をつけるためにタンパク質は必要「悪」じゃない。「透析患者さんにとってタンパク質はリンの元凶」だ、みたいなことを言われがちだけれども、「ちょっと待って。力強く生きていくためにタンパク質は大事でしょう。じゃあ、上がるリンはなんとかするっていう方向でいこうよ。」というような考え方なんですよね。
山本:そういった対応をしてくれるお薬がしっかりあるっていうことも強い味方ではありますよね。
角田:薬の種類がどんどん出てきているというのもいいことだと思います。
陶子:あと私は、患者さんとのコミュニケーションが大事だと思うんです。角田先生のように、いろんなことを考えてくださっている先生がいる、毎日毎日患者さんと顔を合わせる、個々の患者さんの状態に応じて「じゃあこの薬を使いましょう」という結論に導くために、やっぱり話し合いは大事です。患者さんの立場としては「コレが不安なんだ」ということを病院のスタッフと和気あいあいと話す、活力を持って話すことで、治療に参加してるよ、っていうような思いを共有できればいいかなって思ってます。
山本:角田先生、ありがとうございました
角田:ありがとうございました